安藤裕子も銀杏BOYZも決して大衆性が強くないと思うんですけど、「骨」はすごくポップ

——安藤さんと峯田さんの交流はいつくらいから始まったんですか?

安藤 たぶん10年くらい前から知ってると思います。最初は峯田くんが銀杏BOYZのアルバムを送ってくれたのかな? それを聴いて「いいな」と思って、ライブを観させてもらったり。あとはフェスなんかで会ったときに「どうも」ってお話するくらいの距離感ですね。

峯田 そうですね。フェスとか、いろんなアーティストが集まる場所で「あ、いたいた」くらいで。(安藤裕子の存在を知ったのは)最初はCMで聴いた「のうぜんかつら」かな。すごいなって思って、自分たちのCDを送ったりして。その後、同じ年(1977年生まれ)だって知ったんですよ。同い年のアーティストってあまりいないから、それだけで思い入れが違うんですよね。

安藤 そうなの?(笑)


峯田 そうそう。同じようなテレビを見てたり、あの時代を知ってるから。



安藤 ジェネレーションが近いとそうなるよね。確かに同い年の知り合いってあまりいないかも…。今回のアルバムに参加してくれてるスキマスイッチの常田真太郎くんも同級生なんだけど、“77年会”っていう飲み会をやってるらしくて。それは音楽だけじゃなくて、いろんな職業の77年生まれが集まってるらしいんですよ。何度か誘ってもらってるんだけど、行けてなくて。
常田くんが「峯田くんを誘ってみたい」って言ってたから、今度行きましょうか。

峯田 あ、ぜひ。

安藤 そういえば「骨」のM.V.の予告編のテロップにも「同世代の友情が生んだ豪華企画」「昭和52年会」って勝手に書きました(笑)。

——あの素晴らしいM.V.の話は後ほど。峯田さんに楽曲をオファーした経緯を教えてもらえますか?

安藤 私はとにかく自分の曲じゃないものを歌いたかったんですね。峯田くんは数少ない知り合いだったからお願いしたかったんですけど、「峯田くんの曲、私に歌えるかな?」という不安もあって。でも、上がってきた曲が予想以上にすごくポップでキャッチ—だったんですよね。安藤裕子も銀杏BOYZも決して大衆性が強いものではないというか、お茶の間感はないと思うんですけど、「骨」はすごくポップだし、ウチの子とかも「愛しちゃいたい、愛しちゃいたい」って歌ってたりして(笑)。ポジティブな空気を作り出せたし、すごく良い化学反応が生まれた曲だと思いますね。

——峯田さんはどんなテーマで「骨」を書かれたんですか?

峯田 まず、2014年に新木場(STUDIO COAST)のイベントに出たときに、安藤さんもいっしょだったんですね。いろんなアーティストが2曲ずつ歌うイベントだったんだけど。

安藤 ザンジバルナイト(様々なアーティストが昭和カバーとオリジナル曲を歌うイベント。増子直純、清水ミチコ、持田香織、原田郁子、森山直太朗、小谷美紗子などが参加)だね。

峯田 そうそう。打ち上げはCOASTのプールサイドで乾杯だったんですけど、見てると大体わかるんですよね、「この人、友達多いんだろうな」とか。そのなかで安藤さんはポツンといて。僕はプールのそばにしゃがんでたんですけど、いきなり安藤さんにポン!と押されて落とされそうになったんですよ。「久々に会ったら、この仕打ちか」と思って(笑)。

安藤 そこしか手を出す場所がなかったんでしょうね(笑)。

峯田 僕は昔から深く安藤さんのことを知ってるわけではないですけど、そういう安藤さんのパーソナリティは印象深かったし、おもしろいなって思って。で、今回の話をもらったときに「安藤さんに曲を作るんだったら、自分が受け取ったままの感じでやりたい」と思ったんです。僕が思うキャッチ—な人だから、そういう曲がいいなと。あと、ちょうどその頃、自分のバンドの新曲のレコーディングが終わったばかりだったんですよ。4年くらい歌詞が書けなかった曲なんですけど、やっと吐き出して作って。それが1曲で15分くらいの重たい曲だったから、やっとCDに封じ込められたっていう安心感と反動で、ポップな曲を作りたいっていうタイミングだったんですよね。

「子供に対するポジティブな愛情が思い出せるし、入りやすかったですね」

峯田 もうひとつは、安藤さんのお子さんを初めて見たことですね。すごい可愛かったし、いままで子供のことについて考えたこともなかったから、そういう曲を作ってみたくて。



安藤 子供を打ち合わせに連れていってたんですけど、後から「安藤さんと娘さんの姿を見て、曲が出来た」という話も聞いて。そのことでさらに曲との距離感が近くなったんですよね。子供に対して感じていることと、すごく近いものを(曲から)感じたというか。私は暗い方面の人間と言われがちなオーラが強いんですけど、ウチの子、めちゃくちゃ陽気なんですよ。どういう遺伝子でそうなったのかわからないけど、私の小さい頃とはまったく違うような明るい道を歩んでいて。子供と触れ合ってると歌のお姉さんみたいな気持ちになるし、そういう朗らかな感じが「骨」にもあって。「あむあむしたい」っていう歌詞があるんですけど、子供を見てると腕とかほっぺを食べたくなるんですよ(笑)。ポジティブな愛情が思い出せるし、入りやすかったですね。

峯田 歌詞を書いてるときは、パッと聴いて、子供のことを歌った歌詞だなってわからないようにしたいと思ってましたね。何も知らずに聴くと、女の人が男の人に対する気持ちを歌ったラブソングに聴こえる感じにしたくて。時間はかかりましたけどね。ホントは去年の9月までだったのに、出来たのは12月だから。

安藤 そうだよね(笑)。

——峯田さんはレコーディングもギターとコーラスで参加。安藤さんが歌う「骨」を聴いて、どんなふうに感じました?

峯田 自分の部屋で作った、男ボーカルで歌ってる感じとはまったく違いましたね。「こういう感じになるのかな」って想定して作ったんですけど、安藤さんが生で歌うと3次元になるというか、奥行きが出るんですよ。すごくいいなと思ったし、勉強になりましたね。「音楽って、こうやって作られていくんだな」って。

安藤 峯田くんが「演奏が上手い!」って感動してるのがおもしろくて。

峯田 そう、「レコーディングって、こんなに早く終わるんだ?」と思って。自分のバンドだと、1曲レコーディングするために何回かスタジオに入って(アレンジなどを)詰めるんですね。レコーディングも「今日はダメだ。バラそう」ということもあるし。安藤さんのレコーディングは「こういう感じかな? ちょっと音を合わせてみますか」という感じで始めて、「いまの良かったんじゃない? OKテイクにしよう」って。「え、これでOK? いままで自分たちがやってきたのは何だったんだろう?」っていう。

安藤 ハハハハハ(笑)。



峯田 その違いは新鮮だったし、おもしろかったですね。役者で言うと、ドラマだったらそんなにリハーサルしないで「よーい、スタート!」で録っていくじゃないですか。そうしないと間に合わないし。でも、舞台はまず台本があって、1か月か2か月くらい稽古しますよね。その違いだと思うんですよね。

——なるほど。「骨」のアレンジに関しては?

峯田 「こういう感じがいいな」っていうのはあったんですけど、アレンジャーの方(山本隆二)と話しているときに「自分が想定しているものが再現されるよりも、自分にはない発想やコード進行でやってもらったほうがいいな」と思って。実際、いい出来になったと思います。

安藤 峯田くん、ギターのコードを習ってたよね。

峯田 だって初めてですもん、あんなコード。ビックリ。「え、こんなコードがあるの?」みたいな。1番のサビの後の「東京タワーのてっぺんから…」のところなんですけど、自分が作ったヤツとはまったく違うコードになってたんですよ。それがすごく良くて、どうやって握ってるのか教えてもらって。でも、さっぱりわかんないの。あの発想は自分にはないし、今後の作曲活動に使わせてもらおうかなって。

——いわゆるテンション系のコードですよね。

安藤 銀杏BOYZの曲が洒落た感じになっていくかも。

峯田 なりますよ! どんどんフュージョンになります!

「“自分で金田一を撮るなら、峯田くんがいい”って思ってたんです」

——では、安藤さんが監督した「骨」のM.V.のことについて。
このM.V.の世界観は安藤さんが愛してやまない横溝正史ですね。


安藤 そうです。ずっと言ってますけど、子供の頃から市川崑さんの金田一シリーズが大好きなので。私、もともとは映画を撮りたかったんです。私の職業将来の夢は映画監督だったし、映画の世界に対する憧れもあって。流れ流れて音楽の仕事をやらせていただいてますが「もし現代で自分が金田一を撮るんだったら、金田一耕助は峯田くんがいい」ってずっと思っていて。

峯田 えっ。

安藤 今回初めて一緒に音楽をやらせてもらって、メールのやりとりのなかで「『骨』のM.V.を峯田くんの金田一でやりたいんですよね」って書いたら、「俺、M.V.出ますよ」って。

峯田 曲の納品が3か月遅れちゃったから、何でも言うこと聞こうと思って(笑)。しかも、僕も市川崑さんの金田一シリーズが大好きなんですよ。

安藤 お母さんがサスペンス好きなんだよね?
 

峯田 そう。実家の本棚には角川文庫の横溝正史のシリーズがバーッとあって。表紙も良いんですよね、あの頃の角川文庫は。不思議でしたけどね。まさか自分が金田一をやるとは。いま話題の石坂浩二さんがやっていた…。

安藤 時代が追いかけてるんですよ、金田一を。「笑ってはいけない」も金田一だったし、古谷一行さんがCMで金田一をやって。私がいちばん後出しみたいになっちゃうけど(笑)。

峯田 さっき同い年だって話をしましたけど、見てきたものとか、好きなものの感覚が一緒だと嬉しいですよね。「この人、わかってるな」っていう感じになるし、100個の言葉を言わなくても、ひとつのワードでわかると仕事もしやすいので。

——安藤さんにとっては長年の夢が叶ったM.V.ですね。それにしても「金田一を撮るなら峯田さん」って決めていたとは。

安藤 そうなんですよね。私が思う金田一のキャラクターっていうのは…。

峯田 そこは僕も考察するんですよね。内容がおどろおどろしいので、主人公がとぼけているというか、可愛げがないと。石坂さんは本当に抜群で、ちょうどいいところなんです。

安藤 峯田くんは、素っ頓狂な可愛らしさがあるんですよね。すごくパッションがあるし、一見、近づきがたいようなカリスマ性もあるんだけど、近くで見るとぼやけた可愛さを持っている方で。絶対、金田一にハマるなって思ってたんです。今回撮影してみて思ったんですけど、峯田くんはやっぱり俳優さん向きですよね。画角のなかで非常に絵になる才があるというか。金田一が悩みを巡らせるシーンをコラージュしようと思ったんですけど、その表情を見ているのがすごく楽しかったし。これからも曲とは全然関係ないところで、金田一として呼ばせてもらっていいですか?

峯田 シリーズ化していくのか(笑)。僕もすごく楽しかったですね。自分たちのM.V.ではないっていうのもあるし、肩肘張らずにやれるので。

——楽曲もM.V.もふたりの感性に通じ合っているところがあるから成立したコラボレーションですよね。最初の話にもありましたが、同い年で見てきたものが近いのも大きいのかも。

峯田 あの頃やっていたドラマとかって暗かったですからね。「高校教師」とか。音楽好きが聴いていたロックも暗かったんですよ。いまはパステルカラーのキラキラした音楽があるけど、あの頃の音楽はくすんでるイメージがあって。よく耐えられたなって思いますね、多感な時期だったのに。

安藤 平和だったからかな?

峯田 うん、そうだと思う。まだ余裕があったというか。暗いものが多かったけど、痛いだけではなくて、そのなかにはキラキラしたものもあったと思うし。(「骨」の歌詞にも出てくる)ニルヴァーナはその象徴的なバンドだったんですよね。ボーカルのカート・コバーンが(1994年)4月に亡くなって、その1週間後に一緒に暮らしていたおばあちゃんが亡くなって。「イン・ユーテロ」というアルバムが出たばっかりだったんですけど、家の1階でお通夜してるときに、俺は2階の部屋にこもってニルヴァーナを聴いていた思い出があって。

安藤 私にはそういうふうに語れる音楽の思い出がないんですよね。まわりの子はR&Bやヒップホップを聴いてたんだけど、私の中にそういう音楽の血がないみたいで、ぜんぜん馴染めなくて。自分で音楽を聴くときは、暗い曲が多かった気がします。
 


——そんなふたりが「骨」という朗らかでポップな曲を作り上げたっていうのも興味深いですね。昭和52年会も盛り上がるといいですね~。

峯田 77年会にも呼んでくださいよ。スキマスイッチにも会ったことないし、常田さんってサッカーが好きみたいだから、話が合うと思うんで。僕は観るほう専門ですけど。

安藤 サッカーの試合に呼ばれるかもよ。

峯田 そっちは行かないな。走るのが嫌いだから。

安藤 じゃあ、まずは77年会に参加してみましょうか。私、橋渡しをしますよ(笑)。