コラボレーションのキーワードは“肉”と“ブギーバック”

——安藤さん、DJみそしるとMCごはんさんのコラボレーションは、安藤さんがラジオで「ジャスタジスイ」を聴いたのがきっかけだったそうですね。
 


安藤 そうなんですよ。「人様から曲をいただいてアルバムを作ろう」という動きになって、「どういう人と一緒にやったら楽しいのかな?」っていろいろ考えていたんですけど、ちょうどその前くらいに「ジャスタジスイ」を聴いて。“今夜はブギーバック”みたいな曲をやってみたいと思っていたいし、「この人とだったら、そういうお遊びが出来そうだな」って。で、ダメモトでお願いしてみたら「いいですよ」って言ってくれたんです。

DJみそしるとMCごはん(以下おみそちゃん) マネージャーさんから話を聞いて、一瞬で「ぜひやりたいです」って答えました。

安藤 良かった。私、わりとアンニュイなイメージが強いじゃないですか。他の方に書いていただいてる曲もバラードっぽいシットリしたものが多かったりするんですけど、もうちょっと楽しい曲も出来たらいいなと思って。

おみそちゃん 私立恵比寿中学さんに1分くらいの短い曲(「私立恵比寿中学の日常:早弁ラップ」)を提供させてもらったことはあるんですけど、1対1で何度もお会いして、ひとつの曲を作り上げていくのは今回が初めてだったんです。いい経験になりました。

安藤 最初、カフェみたいなところでお喋りしたんだよね。

おみそちゃん はい。ふたりでお喋りしてるような、女子会みたいな楽しさが表現できたらいいなって。

安藤 せっかくだからって、シャレのめした肉を食べながら。


——“肉”と“ブギーバッグ”がキーワードだったんですね。

おみそちゃん 安藤さん、「最近、赤身のお肉が好き」って言ってましたよね。

安藤 そうそう。ずっと肉は好きなんだけど、年齢を重ねてきて、赤身のほうが美味しくなってきたんだよねって(笑)。焼肉でもステーキでも最近は“赤身でレア”が多いです。

おみそちゃん その話を聞いて、すごく大人っぽいし、野性味があるなって思ったんです。あと、安藤さんのリキッドルームのライブ(2015年6月に行われた「安藤裕子 LIVE 2015『あなたが寝てる間に』」追加公演)を見させてもらったとき、安藤さんの足の裏から根っこが生えて地球とつながっているみたいで、すごく大きな存在だなって思ったんですね。歌声も力強かったり、儚かったり、切なかったり、伸び伸びと大きく表現されていて。そのイメージと“赤肉が好き”というのが自分のなかでリンクしたんですよ。

安藤 そうなんだ(笑)。

おみそちゃん そこから「何を歌ったらいいのかな?」って考えて、安藤さんが赤身だったら、私は脂身だなって。

安藤 若いからね、おみそちゃん。

おみそちゃん まだまだ未熟で、甘ったれなところもあるので…。でも、赤身と脂身が一緒になったら、おいしいおいしい霜降りのお肉になれるんですよね。

——まさに「霜降り紅白歌合戦」ですね。

おみそちゃん そうなんです! あと、ヒップホップで“ビーフ”って言えば“ケンカをする”って意味なので…。

安藤 え、そうなの?

おみそちゃん はい。だから歌詞の最初のほうでお互いに悪口を言ってるんですよ。「サシって結局、脂肪だろ?」とか「赤身なんて、噛めずにティッシュにぺー!」みたいなやり取りがあって。その後「そんなにケンカばかりしてないで、仲良くすればトロけるようなステーキになれるよ」というふうになる歌ですね。

安藤 すごい!奥が深いんだね。

おみそちゃん 安藤さんがラップしてくれたのもすごく嬉しかったです。
 


安藤 「私は基本的にメロディを歌って、ラップは茶々を入れるくらいかな」と思ってたんだけど、わりとしっかりラップのパートがあって。最初はアワワワ…ってなってましたね。レコーディングのときもボーカルブースの横におみそちゃんに来てもらって、「これで大丈夫?」って聞きながらやってました。もともとラップの素養はないですからね。

おみそちゃん まず自分のラップを録ってから、いよいよ安藤さんにラップのパートを歌ってもらったんですけど、すごくかっこ良かったんですよ。いままで自分が聴いたことのないような、安藤さんのフロウがあって。

安藤 独自のフロウですけどね(笑)。

おみそちゃん ずっと歌を表現してきているからこそ、ラップも自分のものに出来るんだなって。衝撃を受けました。

安藤 本当に初めてだったから、あまりにも何をやっていいかわからなかっただけなんだけど(笑)。でも、楽しかったんですよ。(アルバムの制作のなかに)こういうエンターテインメントも含んでいないともったいないと思うんですよね。新しいことにチャレンジして、自分でもワクワクしたり、楽しかったなって感じたいから、人様に曲をお願いしているところもあるので。人から曲をいただくことは、いままで知らなかった自分の側面を知ったり、「こういうところもあるんだな」って気付くチャンスだったりするので。

おみそちゃん 私も楽しかったです。レコーディングですごく楽しかったのが、聖歌隊みたいなコーラスを歌えたことだったんですよ。

安藤 そう、あの美しいボイシングは、おみそちゃんです。少女というより少年みたいな雰囲気というか、ウィーン少年合唱団みたいな感じだよね。

おみそちゃん あのコーラスを聴いてると、牛が天に召されているイメージが浮かんでくるんですよね。

神様からの贈り物は、とろけるような霜降り肉?!

——安藤さんのボーカルパートも印象的でした。ふだんの安藤さんの曲とは違うテイストだし、あっけらかんと明るいイメージもあって。

おみそちゃん そうなんですよね。曲を作っていくうちにメロディが増えていって、すごく盛りだくさんの曲になったなって。“聴きごたえ=食べごたえ”でございます。
 


安藤 あとね、一緒にやればやるほど「この曲に出て来るふたりの女子はモテなそうだな」って思った(笑)。その“モテなさそう感”がいいなって思ったし、そこを大きくしたかったんですよね。

——「Tゾーン気にしてTボーン食えるか?って愚問」「基本 挑むオンナは孤独の皿ウンド」ですからね。確かにモテ要素は少ないかも。

おみそちゃん モテる女性は孤独にステーキを食べないかも(笑)。「がんばっている女の人はひとりでステーキを食べるんだろうな」って想像しながら書いたんですよね。

安藤 私、ひとり暮らししてるときは夜中にひとりでお肉を食べてたよ。疲れたなーと思ったら、わりとゴージャズな肉をスーパーで買って、スライスした大量のニンニクと一緒に焼いて、ひとりでムシャムシャ食べるっていう。よく「肉とか食べなそう」って言われるんですけど、ほぼほぼ肉を食べてますね(笑)。

——安藤さん、肉食女子なんですね。意外でした…。

おみそちゃん 玄米とか食べてるのかと思ってました。

安藤 そういう時期もあったんですよ。健康に気を付けて、野菜や玄米を食べるようにしたんですけど、そんなに健康が回復したわけでもないし(笑)、だったら好きなように食べたほうがいいなって。そしたら逆に風邪とかも引かなくなったし、いまも食べたいものを食べてます。

——しかもレアが好きっていう。

安藤 生っぽいものが好きなんですよね。生ガキも好きだし。

おみそちゃん 本物ですね! 私もこの曲を作ったことをきっかけにして、初めて家でステーキを焼いてみたんです。

安藤 赤身? 霜降り?

おみそちゃん 霜降り熟成肉です! 家の火力では無理だと思ったから、まずは「これでもか!」ってくらいにフライパンを熱して、こうやって(肉をひっくり返すマネ)焼きました。

安藤 楽しそうだね(笑)。

——ちなみに「今夜はブギーバッグ」がリリースされたのは1994年。みそしるさんは5歳くらいですが、この時期の音楽も好きですよね?

おみそちゃん そうですね。

安藤 おみそちゃんの年齢を考えると不思議だね。あの時期って、渋谷系の音楽とは違うところでラップ文化も盛んだったんですよ。ギャングスタ系のラッパーもいたし、文化系のラッパーもいて、日本語ラップがすごく盛り上がっていて。私は遠巻きに見ていただけですけど、おもしろいなとは思ってましたね。最近、日本のヒップホップもまた華やかになってきてる印象がありますね。
 


——おみそちゃんはスチャダラパーのメンバーとも交流がありますよね。

おみそちゃん はい。もう憧れの存在ですね。最近は、お仕事もご一緒させて頂いたり。子供の頃に「ポンキッキーズ」で見ていたんですが、高校くらいからちゃんと曲を聴くようになって、「ブギーバッグ」も知って。大学のときに初めてライブに行ったんですけど、そのあたりから自分もラップにハマって、DJみそしるとMCごはんとして活動するようになったんです。

安藤 そうなんだね。

おみそちゃん もうひとつ、昨日「霜降り紅白歌合戦」を聴いてて気づいたことがあるんです。「ブギーバック」のなかで神様がくれるのは「甘い甘いミルク&ハニー」で、「霜降り紅白歌合戦」はトロけるような牛肉なんだなって。

安藤 やっぱりロマンス感はゼロだね(笑)。女が夜中にステーキを食べているのは、また違った物語が繰り広げられてそうだけど。

「霜降り紅白歌合戦」はアルバム「頂き物」のなかでも、“断トツ、愉快な曲”

——アルバム「頂き物」に参加しているアーティストのなかで、みそしるさんが一番年下ですよね。

安藤 そうですね。

おみそちゃん 名立たるアーティストの方々のなかに入れていだいて…。

安藤 いいスパイスになってくれたなって思いますね。ポップな香りが加わったというか、アルバムの間口を明るくしてくる1曲だなって。

おみそちゃん 断トツ、愉快な曲ですか?

安藤 うん、断トツに愉快な曲だね(笑)。

おみそちゃん 愉快に生きてきて良かった!

(ここで「牛ハラミステーキと山盛りポテトフライ」登場! 「おいしそー」と早速食べ始めるふたり)

おみそちゃん おいしい! 周りがカリッと焼けていて、中が柔らかいのはどうしてかな?

安藤 お店の人に聞いてみたら?

——アーティスト同士というより、仲のいい友達という雰囲気ですね。

おみそちゃん あ、嬉しいです。最初に安藤さんとお会いしたとき「人見知りで、口下手ですけど、よろしくお願いします」って言ったんです。そうしたら安藤さんが「私はもっとひどかったよ」って。初めてのライブのときにお客さんに背を向けて歌ったって。

安藤 そうそう。年齢を重ねて、社交上手っぽいワザも身に付けましたけど、もともとは人見知り以下の人間ですから。

おみそちゃん そんなふうに言ってもらって、ホッとしたんですよね。

安藤 おみそちゃんは真正面な方だと思いますね。口下手かもしれないけど、どんなに遠回りしても、それを一生懸命に届けようとする姿勢がすごくあるので。この先、何の不安もなく、周りの人たちに愛されていく方だと思いますよ。

おみそちゃん ありがとうございます。安藤さんは私の言うこともちゃんと受け止めてくれて、ラップも歌ってくれて。大人の女性はこんなに優しいんだって思ったし、安藤さんの懐は広いな、海だなって。こういうカッコいい女性になるために、もっとお肉を食べようと思いました。安藤さんに憧れている方も、お肉を食べたほうがいいですね。

安藤 (笑)。おみそちゃんはこうやって喋っているときより、ラップしてるときのほうが感情豊かだよね。

おみそちゃん わーありがとうございます。そう、喋ってるときは平坦で、感情があまり乗っていないように聞こえるんですよ。

安藤 ふだんからラップみたいな感じで喋ったら、もっと明るい感じというか、ハシャイだ感じになるかも。

おみそちゃん あ、いいですね。2016年はそれを目指します! 安藤さんの来年の抱負は?
 


安藤 そうだなあ…。今年はすごく慌ただしくて、「ああ、忙しい」って言いながら過ごしてしまったんだけど、忙しい忙しいって言ってるのは良くないなって。2016年はじっくり腰を据えて、しっかりモノを見て、自分が何を感じて、何をやりたいのかを考えてから行動したいですね。

おみそちゃん 視野を広くして、自分の心と向き合って。

安藤 そうそう。ところでおみそちゃんって、恋人はいるの?

おみそちゃん え、いません…。

安藤 好きな人は?

おみそちゃん 好きな人が出来ることもあるんですけど、自分からはどうにも出来ないから、何も起きないですね。アタックの“ア”くらいはやってるつもりなんですけど、何も届いてないし、気付いてもらえなくて。どうしたらいいですか?

安藤 うーん。相手からグイグイ来られるのはどう?

おみそちゃん それもあんまり…(と肉を食べながら女子トークは続く)
 

撮影協力&ハラミステーキ!
日仏食堂トロワ
03-3419-0330
世田谷区三軒茶屋2-15-14 ABCビル110